目盛りフェチ

ここ数週間ほどBAR WAITSのホンメイ氏とある企てをしていて本業はサッパリだった。そこでちょいと気合いを入れようと、今日はコーチャン・フォーへ出掛けて新しいスケッチブックを買ってきた。

いつもの事だけど、新しくスケッチブックを買う時はちょっと複雑な気持ちになる。
まだこんな事を続けるつもりかとか、そろそろまともに生きてはどうかとか、売れない作家がモチベーションを保つのは難しい。

それでも迷うことなくいつもの製品をカゴに。
ボクはそれほど絵を描かない方なので、この20年で使ったのは写真プラス三冊くらい。


それから売り場をブラブラ。
特に製図用品と刃物を丹念に見てまわった。けれどこれといった物もなく、信頼の切れ味OLFA製カッター替刃と青い軸が素敵なステッドラーの鉛筆を仕入れて帰宅。それにしても最近わくわくさせてくれるような文具ねぇなぁとブツブツ言いながら‥。
それもそう、クラフトを始めてやはり20年、揃える道具も無くなって今は探究心もなくなった。
普段使う道具はこの程度で間に合っている。どれもごく普通の物ばかりです。

雑多なところを見せてしまうが、こちらは電動工具類の一部。

クラフトの取材に来た方がこのミニ町工場の様な光景を見て落胆して帰る。この左隅には回転丸ノコギリがついた恐ろしいテーブルもあるしね。
どうやらハサミと糊しか無いような白壁の奇麗な部屋でオシャレに制作していると踏んで来るらしい。部屋も狭いしどうカメラを向けても絵にならないって?  甘いね。


そういえばその取材に来た女の子に「これって変わった定規ですね」と言われて一人受けたのがこれ。

たしかに目盛りがたくさんあってそれっぽいけど定規ではない。これは計算尺。過去の遺物というなかれ、まだちゃんと売ってるよ。


これがどう便利で何に使っているかというと、拡大縮小率算出と円周と歯車のギア比の計算など。

計算の仕方は見ての通り。赤いラインがあるカーソルと真ん中の尺が左右に移動します。もちろん手動。
歯車計算必須の乗算は延々と続けられ、逆入力していけば中間歯車の値も簡単に出る。また丁寧にも写真の3のすぐ横にはπ3.14が刻まれているから親切。ただし足し算と引き算はできない。関数やその他の複雑な計算もできるけど使い方は忘れた。

計算尺はボクにとって今でも現役の計算機。そしてかつて憧れの道具だった。
ボクは子供の頃から定規などたくさんの目盛りが付いた道具が大好きで、ある日近所の建築現場で若いお兄さんが製図を広げた画板の上でこの道具をいじっているのを見かけて訪ね、それが計算尺という物だと知った。そのあまりにみごとな目盛りの配置と数に魅了されたのはもちろん、親切なお兄さんの工学的な所作におおいに憧れたのです。

さっそく帰って母にねだってみるも「なにそれ」とあっさり却下。しかたないので定規2枚を使った計算法を編み出して満足していた。

それがその数年後。工業高校入学の日に渡された新米セットの中にこの計算尺を見つけて思わぬ再会を果たした。以来いくら電卓の世になっても何故か手放したことはない。
子供の頃のフェティシズムっていうものは生涯たたるものかも。

この見た目も機能も素敵な計算機は誰が発明したのか。全ての物のはじまりに敬意と感謝の意を改めて表したい。

最後に、映画「アポロ13号」で計算尺がアップで登場するシーンが0.数秒あるのでご紹介しよう。ジンバル補正値計算のシーン。

どうだい、俺の目盛りフェチ。